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雑記/ドット絵はどう見えているか【ドット絵Advent Calendar 2025記事】

  • 執筆者の写真: Hattori
    Hattori
  • 21 時間前
  • 読了時間: 11分

更新日:3 時間前

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※こちらは有志企画『ドット絵Advent Calendar 2025』12月7日担当としての投稿記事です。ドット絵作家のみなさんがクリスマスのその日まで日替わりで愉快な記事を書いてくれます。あなたは全部読むべきです。読むのです。




服部です。


いきなり寒くなりましたね。

カレンダーをどの角度から見ても12月と書いてあるので今年も終わりと認めざるを得ない状況ですが皆さんはお元気に過ごされてますか。


僕の活動名義である『服部グラフィクス』は創業から既に18年が経過しましたが、常勤ゲームグラフィッカーとの事実上の副業状態から完全な専業作家になってから実はまだ約3年しか経っていません。


フリーランスは2年目が山場だと聞いたことがありますが僕は瀬戸際ながらドッコイ生きており、もうちょいこの調子でなんとかやってみようじゃないかと思うところです。

がんばります。




さて今年一年も大変ありがたいことに多方面から愉快なお仕事を頂いてどうにかやってこれました。


一番大きな仕事は昨年からグラスホッパー・マニファクチュアさんとご一緒させて頂いていたゲーム『ROMEO IS A DEAD MAN(ロミオ・イズ・ア・デッドマン)』のピクセルワークということになるでしょうか。


アナウンストレーラーにもなんかちょっと服部っぽいやつの片鱗が覗えるかと思います。


『ROMEO IS A DEAD MAN』アナウンストレーラー(※年齢制限のため直接視聴できません)

こちらはこの記事を書いてる今、ええ今です。

まさにそのグラスホッパーさんから発売日の発表があったところで、


2026年2月11日


2026年2月11日に発売とのことです。

皆さんひとつよろしくお願いいたします。

2026年2月11日発売です。

Steam、PS5、Xboxでリリースされます。



また先日ミュージシャンのRAM RIDERさんと作った2作目のMV『あふれる –Overflow–』も公開になりました。


RAM RIDER – あふれる –Overflow– Official Music Video

こちらはかなり長めな時間を掛けてRAMさんたちと丁寧に手掛けた映像作品で、癒やされるRAMさんの楽曲もさることながらローレゾアニメ、実写合成、3D、ピクセルエフェクトと図らずも服部がこれまでやってきたことの集大成となりました。お影様で10万再生を突破いたしましたがまだまだ少しでも多くの方に見て頂きたく、こちらもよろしくお願いいたします。



僕が過去4作にわたりMVのドット絵パートを担当させて頂いてきた『超人的シェアハウスストーリー 「カリスマ」』は先日TVアニメ化決定の発表がありました。

どんな放送内容になるのかまったく想像つきません。大変楽しみです。


今年5月に発表された楽曲『とってもかりちゅま』では楽曲コンセプトに合わせて冒頭からかなり長めに服部パートを頂き、僕もいろいろ振り切って制作にあたりました。


しちにんのかりちゅま「とってもかりちゅま」MV

実はこのドット絵映像群を作っている最中「謎の感染症」という診断名の、長期間高熱を発するよくわからない強烈な風邪をひきまして途中からむしろなんか楽しくなっちゃってヘラヘラ笑いながら作っていたのを昨日のことのように思い出します。


「カリスマ」のMVの視聴者様コメントには頻出する「インフルエンザの時に見る夢」というワードがありますが、作ってる方が実際に高熱でうなされてたケースは珍しいのではないでしょうか。まったく作家業というのは睡眠を十分に取って免疫力はいつも確保しておかなければいけません。



本題に入りましょう。


僕が仕事を続けるうえで日頃から一番気になって仕方がないのは、表題の通り「ドット絵はどう見えているか」、つまりクライアントであり視聴者であり世間が現在ドット絵というものをその目と心でどのように捉えているかという、そのことに尽きます。


もちろん「うるせえ知らねえぶん殴るぞこのやろうけえれけえればーか!」という鋼の精神も大事ですしぼくも本来9割型はそっちの性分です。

しかしそれを野生的に貫くことは専業3年目のローレゾ作家にとっては非常に敷居が高く、やはり冷静に世間の顔色を伺ってみることもしなければご飯を食べていけません。


また僕にお仕事のご依頼をくださるクライアントの皆さんはドット絵に精通していた方ばかりではありません。むしろ専門外であるからこそ僕に信任頂くほうが普通なことであるわけで、そうした方々と僕みたいに「始終ドット絵ばかり見たり描いたりしている作家」とでは、ドット絵に対してお持ちの印象というのが大きく違うものです。



時にドット絵は普通に考えたら「粗くて見づらい絵」であるという、割と当たり前のようなことすら僕なんかはよく忘れがちです。ここに愉快な失敗談があります。


僕が何度かお世話になっているアニメーション映画祭に初めて入選したときのことですが、その時は僕のGIF作品集を短編部門にノミネートして頂きました。


映画祭なのでノミネート作品は映画館のスクリーンを使って上映されます。

ぼくの作品はループGIF5作程度を連続で映し出すもので、GIF作品なので音はありません。

面白いもので映画館では音がなくなる瞬間、観客が全員息を殺します。

完全に無音状態になったシネマの視界を覆い尽くすほどの巨大スクリーンで鬼デカ画素のドット絵が流れました。


1ピクセルが人間の生首ほどの大きさでした。


上映された作品の1つ『YAKAN』
上映された作品の1つ『YAKAN』

静寂と微笑いの中、「わからん」というほんの小さな声が僕の耳を掠めました。


もちろん当時の映画祭においてGIF作品、しかもドット絵はあまり例がなく非常に意欲的な試みで独特のスタイルと多くの方に捉えて頂いた事も確かではありましょう。


あと…はい、ですよね、上記の作品などは「わからん」という感想が妥当であることも承知していますが、しかしもっと根本的な部分で「これはわからんよな」ということも僕はハッキリと理解しました。


もちろん映画館で上映されるものが無音だったことが最大の甘えかつ反省点で、それについては以降できる限り音を自作する努力を積んできました。結果的に僕の作品の音がスットコ品質なのはご存知の通りかと思いますが、それでも音があったほうが1000倍マシなことが多いのです。


しかし、のみならず、画素がデカすぎました。

このことについては言われずとも承知されているドッターの方も多いかと思いますが、

映画館であれスマートフォンの画面であれ、画素が脳内で結像し、絵として認識できるドット絵の粗さには限度があります。


まして僕などには「慣れ」という強力なステータス効果があります。

幼い頃から「なんだかわからんね」という祖母を後目に75x60pxの描画能を誇るカセットビジョンで武人の如く鍛えてきた僕の目は世間から見ればバーコードリーダー並みのピクセル読解力ということになるはずです。その僕ですら読み取り辛く感じる程度でしたから最前列の方々などはちんぷんかんぷんだったことでしょう。


この日の反省から超ローレゾ動画のプレゼンテーションには「一般的な見やすさ」を十分に考慮に入れて慎重に行うことを決意したものです。


慎重に行った結果(再生するとレターボックスが出ます)

こちらは最近の作品で『桃太郎』をモチーフにした超ローレゾショート動画ですが、

四隅のレターボックス(黒ベタの枠)をでっかく設けることによって視聴者の意識する視界=動画スクリーンの中のピクセルサイズを下げ、それによってドット絵のチマさも誇張するという手段を取っています。


幸いこの動画は国内外の多くの方に見て頂くことが出来たので、図に乗ってのちにローレゾ昔話シリーズとして2作品を同じ手法で作りました。レターボックス領域の大きさが一見無駄に感じられるかもしれませんが、それ無くしてこんな動画を広域に届けるのは難しかっただろうと僕は考えています。



ところで僕はご依頼で作成するドット絵の方向性について「ゲーム然とした方向性で行きますか?」という確認を頻繁にします。


「ドット絵=ゲーム的なもの」という世間的な受け止められ方は今でも根強いものでファミコン画面のリファレンスとともにご依頼頂くことも多く、なのでそうした場合は僕がいつも作る動画のような自由律のピクセルアニメーション※ではなく、ビデオゲーム画面的なルール感に則った絵をご提供しようと思うわけです。


※自称「自由律のピクセルアニメーション」とされる服部の作品
※自称「自由律のピクセルアニメーション」とされる服部の作品

しかし前述の通り確認したところで「えっ…?」「は?」というリアクションを頂くことが稀にあり、これはさらに確認を重ねていくと明確になっていきますがつまりどういうことかというと、


「そもそも服部お前、ゲームだろ


ということなのです。ゲーム然としてないドット絵とはいかなるものか?と。

禅問答なのかと。


僕自身は「古典ゲーム的なドット絵」と「そうじゃないドット絵」を頭の中で勝手に二律化していたのに対し、どうも人によっては矩形ピクセルそのものがどうしようもなく想起する強力なビデオゲーム観にどこまでも魅力を感じておられるという場合もあるということなのです。


こんな基本的な理解が出来ておらぬとは職業作家として手抜かりもいいところでしょう。

そもそも僕はゲームであることを自覚するべきなのです。


その一方で、僕自身の作品をリファレンスに「とにかくこの感じでやってほしい」というご依頼もかなり増えました。僕としては遠慮なく描かせて頂けて本当にありがたいことです。



そういえば、ご依頼時にお持ち込み頂くリファレンス画像としてAI生成のドット絵をお見かけする機会も増えました。


「出来上がりはこんな感じを想像しているよ。」というもので、クライアント様のドット絵観、解像度イメージも一瞬にして伝わるので僕としても非常にやりやすく、また前提になるイメージをご提示頂けることで僕からのご提案もさらに深いレベルでスタートすることが出来ます。


いやこれは作家としてもまったくもって助かるもので、しごできの極みでありますなあと敬服して止まない反面、出てきた瞬間の僕が内心ちょっとだけ「ウヒャィ」となることもまた事実といえば事実です。


あれはついこないだと言っていいんでしょうかね、画像生成AIでドット絵自画像を生成するプロンプトが一時ミーム的に流行しました。流行が僕のところに届くのには怒でかいタイムラグがあるし、似たようなムーブメントが定期的に起こるので本当にいつ流行ったのか仔細はわかりませんが、世界的規模で「AIがこっち見た」という点ではある意味ドット絵史の転換点ということになるでしょう。


画像生成AIから出力される「ドット絵」も2、3年前までグチャグチャでスットコドッコイなカオス絵だったのに比べていつの間にかドット絵的エレガンスにわりとちゃんと従った形の物が出て来るようになっていて「こいつ、しこたま食いやがったな」と思う次第ですが、ただ僕は退屈なプロンプトによる生成ドット絵のたぐいが今後職業的死活問題になるまでの印象は感じておらず、どちらかというとAIに学習させるほどの価値が見出されてミーム化するほどドット絵遊びに潜在的な需要があったことに驚いています。みんなやりたかったんじゃないか。じゃもっと仕事あるだろと言いたいところではありますが。


よろしくおねがいします。




もう一つ、僕のドット絵アニメーションに対するSNS上でのご感想の様子が特に変わってきたと思う部分があります。


「ドット絵である」ことにさして触れられなくなりつつあるのです。


SNSやインディーゲームなどを中心に多くの作家さん達の活動を通じてドット絵は今やわりかし見慣れたものとなり、アピアランスとしてのドット絵は数あるビジュアルアプローチの一つとして、おそらく先ほどの「ゲームっぽさ」みたいなものもしっかり内包したまま、普通にそのへんにあるものとして自然に認知され始めているのかもしれません。悪く言うならあるいは飽きはじめたのでしょう。


しかしその作り勝手を始めとして、コンピューター美術において最もエッセンシャルなドット絵そのものの本質的な良さは流行とは無関係で、みんながすっかり飽きてしまったらなんとなく終わるようなものではありません。要するにそこからが本番でむしろ歓迎されるべき傾向だと思うのです。展覧会場で絵画を見て「絵の具っていいよね!」というような人はたぶんやや少なめだと思いますがそれと同じことがドット絵にも現れ始めているのでしょう。



僕はよく作家としての目標について「ドトールの壁」ということを人にたびたび話しています。


ドトール(コーヒーショップ)の店内って常にいろんな人がいます。大衆の場です。

その壁に大抵は店舗用アセットとでもいうべき、ファブリックや観葉植物などの壁掛けの機能的でアノニマスなアートが飾られています。


あれを作ったり店舗設計したりしている方々はたいへんに頭いいなあと思う反面、せっかくの「なんか貼れる壁」が勿体無くも思われ、なんか常時企画展やったり学生作品とか募集したらいいのにな、と思っています。

最ももちろんそんなことはとっくにご承知で、ドトールの商業方針に反するからこそ基本的にはやらないのでしょう。


しかし仮にドトールの壁が作品の展示スペースになったからといって、いきなりそこにぼくのドット絵を飾ったらおそらくさすがに「ん?どうした?」となることでしょう。

ドット絵が背負った「ピコピコ感」というアトリビュートがあまりにもくそでかくて、まず奇異な目で見られてしまうことは必至です。(いや、作家としては全然それでいいんですが)


なのでまず、そもそもドット絵自体が今よりも遥かに「そこにあって普通」でなくてはならず、その上でなんとかコーヒーに合う絵として採用されるという猛烈に高い目標があの壁というわけです。究極の絶壁です。


ここまで書き散らしましたが、「ん?何言ってんのぜんぜん気軽にやっていいよ」と言ってくださるドトールの役員などの方はぜひこちらから




服部でした。今年も残すところ5ヶ月ほどありますがみなさま来年もよろしくね。

 
 
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